都議選

細かいデータは後でゆっくり見る必要があるとして,都議選はいちおう民主党の圧勝ということに。しかし実際のところ「中選挙区マジック」というやつで,民主党はそれほど勝てなかったというべきではないだろうか。新聞で選挙結果を見て単純に得票率だけ比べると,自民党25%に対して民主党が40%なのだから,自民党は得票率から考えるとよく議席を確保しているといえるし*1公明党に至っては,全選挙区で平均13%,もちろん全部出してないわけで,出したところでは平均して15〜20%の得票を確保して,さすがの全員当選になっている。なお選挙区ごとの得票率を見ると,出しているところでは公明党自民党よりほんの少し得票率が低いくらいで,定数2で自民党に勝ったところもある(荒川区)。少なくない選挙区で,自公を足した得票率より民主一党での得票率の方が高いが,議席で見ると自公のほうが民主よりも高いというところがすごい。公明党が出してない選挙区もあるし選挙区定数が違うから一概にはいえないが,全体で見たら民主党のほうが自公の合計より得票しているわけで,それを考えると,民主党は勝ったといわれているけど,現在ほぼ同一政党と化しつつある自公と比較すると議席で負けているというのは民主党としては痛いのではないか。
他方で,そうは言ってもいわゆる一人区で民主党がほぼ完勝したのも事実。優勢といわれた選挙区では圧勝し,厳しいと考えられていたところでも勝利を収めているわけで。投票率の上昇や自民党支持層の離反といった現象の影響が出ているということなのだと思われる。ただちょっと気になるのはこの手の選挙区でどの程度公明党が動いたかということ。公明党は自分のところではフル稼働しているわけだけど,自民党のところで(特に一人区)どの程度動いたのか,というのは衆議院選挙を考えるときには重要になるのは間違いない。
中選挙区マジック」が出てしまうのはやはり単記非移譲式の複数区(SNTV/MMD)ということで,民主党が取りすぎている死票が多い。開票速報でも早々と民主党候補の当確が出ていて,石原都連会長も,「最後は自共の戦い」と早い段階から話していたが,実は民主党が取りすぎているおかげで,最後自民共産で競ったといえるところでは自民党がほぼ勝っていることが大きい。自民党はやはりそれなりにうまく選挙の票割りができていたのではないかと思われる。最後は自民党内で同士討ち,というのはかなり多くの選挙区で行われていたけど,そういうケースでは世田谷区を除いて確実に議席を確保しているわけで,同士討ちの結果他党(特に共産党とネット)に出し抜かれたケースはほとんどない。民主党が強くて「どうせ残り一議席しかとれない」という中で,共産党や無所属に議席を取られなかったのはある程度当選ラインを読めてたからかと思うのですが(まあ逆に票割しすぎたせいで他の政党と競ることになったという問題もあるわけで,買いかぶりかもしれませんが…)。
今回民主党過半数を取れなかった原因はもちろん過半数の候補者を出していないということだけど(候補者58,過半数64),落とした4つの議席を見るとそのうち2つが大田区の現職というのが非常に興味深い。民主党が4人出す(定数8)ことで注目されて,当選は2人だったので,典型的に票割りの失敗に見えるがそうでもないかも。負けたのは50代後半以降の現職で,大勝ちした二人は30代の新人。もし新人のうち一人をやめたから現職が(二人)通るとは限らなかったのではないかと。最下位の自民党現職は51歳三期目で,民主党の新人が出なかったら自民党も増えるだろうし。現職のどちらかをおろせば3人通っただろうけど,それは結局無理だった,ということなのではないか。ただこういう民主党の定数の大きな選挙区でも過半数を取りに行くという姿勢は非常に興味深い。今回だと大田区(4/8),練馬区(3+1/6),世田谷区(3/8)などあって,以前に選挙学会の報告で書いたことがあるのですが,この手の定数の大きい選挙区を苦手としていたと考えられる民主党が,都議選という特殊な選挙とはいえ,定数の半分程度を擁立し,ある程度の成果を挙げたことは今後の地方政治を見る上でも参考になると思われます。
さいごに,地方政治の研究者の端くれとしては,やはり一番のインパクトは,負けたとはいえ数字的には共産党キャスティングボートを握るポジションに着いたということだろう。自公+共産,民主系+共産,自公民主の大連立,のどのパターンの連合も組まれないとすれば,どの党派も過半数を握ることができないわけで,しかも今回のプロセスでなかなかこれから連合を組めないとすると,思いっきりデッドロックが待っているような…。新銀行みたいに民主系+共産で部分的に組めるところはいいとして,オリンピックがうまくいかなかったあとの臨海の処理とか大変だろうな,という感じがするところです。

*1:25:40を単純に当てはめると,民主党54議席を所与とすれば34議席程度