政治学と因果推論

大阪大学の松林哲也先生から,『政治学と因果推論』を頂きました。どうもありがとうございます。因果推論の方法は経済学を中心に,社会科学で共有できる方法として広がっています。そんな中で「政治学と因果推論」と言うと,政治学でも因果推論の方法を使わないとダメなんだといったような極端な議論に傾いてしまうこともありますが,政治学の中で早くから因果推論の研究に取り組んでこられた松林さんが書かれた著作だけあって,その意義や方法を解説ところが素晴らしいのはもちろんですが,その限界や社会における役割についても触れられているのもよかったと思います。最後のところで僕の本もご紹介頂いて非常にうれしく感じました。

本書を頂いて,あまり何も考えずに頭から読み始めて,因果効果の定義と測定,自己選択の話とそれへの対応と流れていくわけですが,4章で無作為化実験の話が来て,5章で降雨量と投票率の話が続きます。5章は「自然実験」という言葉が入る章ですが,降雨量と投票率の話はよく操作変数のときに使われるので,あれ?操作変数?と思ったら強い外生性を持つ偶然の割り当ての話,という位置づけで,この降雨量の話はきちんと7章(こちらにちゃんと「操作変数法」とあります)で回収される形になっていました。まあこれは僕が単にちゃんと目次を読んでいなかったところもありますが,章間の連関についてもよく練られた著作であると思いました。この操作変数法の説明は非常に充実していて,色々読むことはあるわけですが,個人的には最もわかりやすい操作変数の説明であったかと思います。まあ一応政治学者なので,政治学ベースの事例で説明してもらう方がわかりやすいということはあるわけですが,操作変数の仮定とその意味についての説明がすごくわかりやすいと感じたところです。

政治学でも因果推論の方法が重要になる中で,こういう教科書が出ると授業を組みやすくなっていくと思いました。まず『Rによる計量政治学』で基本的な分析方法,統計的推定やその妥当性を検証する方法を学ぶということを行ったうえで,次のクラスでは『政治学と因果推論』などを中心に因果推論の方法を学ぶ,という感じでしょうか。もし可能であれば,量的テキスト分析とか地理データやネットワーク分析何かを学ぶクラスもあるとより充実したものになるように感じます。勤務校ではこのうち2つがありますが,最後のような授業に使える教科書もそのうち出てくると嬉しいなあ,と(ただの希望)。

仕事納め

いつの間にか2021年も終わり。忘年会とか年末を感じさせる(外での)行事が減ったためにあんま年末感しなかった。もちろん去年も似たような状況だったわけですが,今年のほうが(オミクロン株への懸念があるとはいえ)昨年より自由がある感じでかつそういう季節感がある行事がない,っていうのでより年末感が少ない気がする。

今年はなんだかんだずっと仕事をしていたような気が…。学会事務局は二つあると年中何かやってる感じはあるし,4月からの学部教務委員長は割と反射神経を使う仕事のようなので,集中して他のことをするのがちょっと難しくなるように思った。事務局はあと1年弱で教務は1年強と思うと辛い…。ゆっくり考える仕事が難しくなった割に,12月以外は年中何か書いてた気もする。年明けは『テキストブック地方自治』の担当部分を書き,それから第一生命財団の助成研究の調査と報告書,そのあとは4か月くらい放送大学の『公共政策』(〆切からずいぶん遅れてすみません…)をひたすら書いてた。6月はIPSAでの発表のペーパーを書き,7~8月は1年前に〆切となっていたはずの二次元の政党間競争を考える論文(いつ出るのかわかりませんが),それが終わったら北村先生の中央省庁公務員サーベイを使った論文(こちらは来年2月出版予定)という感じ。11月は研究報告の準備,12月は管理業務で終わってしまったので,結局自分の本の原稿はあまり進んでいない…。今から1月中旬までで時間を使いたいとは思っているのですが。

というわけで,一応出た文章は,昨年中に書いていた『総合検証 東日本大震災からの復興』で仮設住宅について書いたものと,『テキストブック地方自治』で自治体間連携について書いたところ,後はインタビューなど散発的な雑誌記事くらいでしょうか。なお,『公共政策』のほうは一応12月に見本が出て,それほど多くはないのですが献本もさせて頂いてますが,発売は3月だそうです。

今年印象に残った本,と思ったんですが,仕事関係以外ほとんど読む時間なかったんですよね…。ただ『監視資本主義』は面白かったです。あとはまた別で紹介したいと思いますが,最近頂いて読んだ松林哲也先生の『政治学と因果推論』はとても面白くて勉強になりました。いろいろ読んだ中で,個人的には操作変数についての説明はこの本のものが一番しっくりきました。また,松林さんらしく,因果推論を重視しすぎることの問題性や,日本政治研究への意味などが書かれていたのもとても良かったと思います。

分散化時代の政策調整

広島大学小林悠太先生に『分散化時代の政策調整』を頂きました。ありがとうございます。本書は博士論文をもとにしたものですが,小林さんは修士課程の時に大阪大学で副査として指導をした大学院生で,実は副査などをしていた大学院生が書いた初めての著作ということもあって個人的にも感慨深いです。内容としても,修士論文やその後の論文から非常に大きく展開した議論をされていて感銘を受けました。

本書で扱っているのは,内閣府を中心とした「政策調整」と呼ばれるものです。「呼ばれるもの」ってよくわかりにくいですが,これは制度っていうものでもないし,現象っていうのとも違うだろうし,取り扱いがしにくいものです。しかし従来から行政学のコア概念のひとつであることが意識されているもので,政策決定において様々な組織・機構が複雑に絡み合う現代行政においてその特質を解明することには大きな意義があります。

本書では,この重要な問題についての最近の先行研究の整理を丁寧に行ったうえで,まず近年の日本の行政において「局」「課」ではなく「室」という単位が重要になりつつあること,つまり官僚組織における基礎単位が縮小していることを論じています。「分散化」という話ですが,これはきちんと言われていないと思いますが,うまく示すことができていると思いました。内閣府について論じた章では,これも多くの人がきちんと議論していない共生社会担当政策統括官の機能について論じていますが,実は「総合調整」を任務のひとつとして設置されたこの組織が「共生社会政策」と呼ばれる政策領域を開拓する可能性があったこと,しかし実際はそうならなかったことが観察されています。さらに,共著で書いたテーマとも近いですが,内閣官房にかかる政策会議の機能が分析され,官房長官周りが重要になっていることが指摘されていました。

読者としての感想ですが,本書で最も重要な主張を端的に書いているのは131頁の「内閣官房内閣府が拡大した理由が,「首相の権力」の拡充ではなく省庁官僚制や政策自体の悪構造に由来するのなら,政官関係の変化や政治過程の集権化がもたらすゆがみを解消したところで,それだけでは問題の解決策にならない」というところではないかと思いました。要すれば,専門性が重要になる中でジェネラリスト中心の官僚人事システムということが決定的に難しくなっていて,その中でやっていくためにたこ足のように調整システムを広げていかないといけない,ということではないか,と思います。本書のパースペクティブから言えば,仮に首相の権力が十分に強くて統合できるなら,共生社会の政策統括官は社会政策担当として進化を遂げる可能性もあったのかもしれません。しかし,ここから構造化された何かが取り出されることはなく,もう一回「調整」のためのハコとして利用されることになっていったわけですが。

まあ正直言ってマニアックなテーマで,取り上げられている調整の「質」について考えるのはなかなか骨が折れるところです。しかし,中央省庁改革から20年たって,日本の省庁制における調整という極めて重要ではあるけれどもわかりにくいテーマについて,改めて考えることの意義をよく示したものだと思いました。

 

野党の戦略

10月31日に行われた総選挙では,まあ事前の予想にされたように――というか政党支持率を反映して――自民党単独過半数を超えて,野党には厳しい結果になりました。野党のほうには直前には菅総理の不人気があって,これなら勝てるのではないか,という期待があっただけに,立て直しがなかなか大変なところかと思います。30日には立憲民主党の代表選挙も行われるわけですが,新代表が次にどういう戦略を描こうとするのか,というのは立憲民主党だけではなく,日本政治にとっても重要な話かと。

そういった野党の戦略・野党のあり方について考える好著を頂いておりました。まず慶應義塾大学の清水唯一朗先生の『原敬』です。原敬といえば政友会を率いて日本における政党政治の基礎を作った政治家ですから,基本的には(現在の自民党につながる)政権に近い政治家というイメージを持っておりました。同時代的にも合理的な志向を持った切れ者,悪く言えば政治的マヌーバリングに長けた政治家,というように見られていたと思いますが,本書で描く原敬は,少ないチャンスに挑み,その失敗を含めた苦労と挫折を重ねながら政党政治のダイナミズムを生み出していく「野党」味のある政治家のような印象を受けます。特に藩閥政治のボスである山縣有朋と対立しながらも,政友会の総裁として政権への地歩を固めていく第5章を非常に面白く読みました。そこでは原が,アウトサイダーである政党を率いながら,「是々非々」で政友会への信頼を高め,自らへの求心力も高めていきます*1。このような原の歩みは,現代の野党にとっても考えさせられるところがあるのではないかと。ただもちろん,原だけではなくて,元老世代ながら「元老後」の次世代を見据えた行動をとろうとする西園寺公望,そして原と並ぶかたちで憲政会を率いる加藤高明,というアクターも必要になるわけで,そのあたりが現代日本では難しいところなのかもしれませんが。このあたりは,村井良太先生の『政党内閣制の成立』を思い出すところでもありました。

もうひとつ,善教将大先生から『大阪の選択』を頂いております。ありがとうございました。こちらは出版前にコメント依頼という形で読ませて頂いて,実はそれから1年弱くらい経っているのですが,そこからぐっと完成度を上げてこられてすごいと思います(自分はだいたいコメントの部分を修正するとそこで力尽きるのですが(苦笑))。前著『維新支持の分析』がとても好評だったことを踏まえて,二回目の住民投票を中心に分析した内容を,有斐閣から一般書とし出版したものです。近年の因果推論の手法の発展を踏まえたもので,必ずしも説明が簡単ではないようなところも丁寧に整理され,データもうまく可視化されているために,一般書として広く読まれるものになっています。「維新はどういう人たちに支持されているのか」を踏まえて「なぜ二回目の住民投票で否決となったのか」を探っていくストーリーが明確に示されていて,それを因果推論の手法で具体的に肉付けしていくようなかたちになっているので,手法を実際に活かすお手本/モデルのようなものとして読めるとも思います。そのストーリーの主要部分を書くのはネタバレのような気もしますが,要するに維新は少数のコアな支持者の支持に支えられている政党というよりは,多数のときに移り気な支持者によって支持される傾向が強いこと,そして賛否が拮抗し情報の洪水になっているような二回目の住民投票の中で,数少ないキュー(手がかり)が有権者を動かすことで優位に見えた賛成側が敗れたこと,が論証されていきます。

今回の衆院選議席を伸ばし,再度注目されることになった維新ですが,その支持層とはどのようなものかを考えるためにも必読の研究と言えるのではないでしょうか。あと宣伝ですが,『中央公論』の2022年1月号では,善教さんと私で,総選挙における維新をはじめとした野党についての対談をしてます。

 

*1:なお「是々非々主義」という言葉は,原が軍閥藩閥とみられた寺内内閣とそれを攻撃しようという犬養率いる国民党の間で,形式にとらわれずにまずは中立路線をとって,是は是,非は非として公平無私の態度で臨むと表明したところから生まれているそうです。

それでも選挙に行く理由

慶應義塾大学の粕谷祐子先生に,『それでも選挙に行く理由』を頂いておりました。ありがとうございます。投票日に紹介するにふさわしい本のように思います。本書はプシェヴォスキという碩学が,自らのものをはじめとしたさまざまな研究の成果から,選挙を行うという営みによって何が期待できるのかを議論していくものです。決して目覚ましいものばかりではなく,見方によっては論争的であるわけですが,一定の成果と呼べるものが何かをわかりやすく説明していくものだと思います。プシェヴォスキは基本的には実証研究の人だと思いますが,こういうかたちで,政治についての実証研究を丁寧に整理し,それを事実として理論的に展開していくのはとても重要なことだし,日本でもいくつか行われるようになっていると思います。従来の演繹的な理論研究とはやや異なるように思いますが,このあたりは論文と違う「本」の一つのあり方なのかもしれません。

以下の最後の部分の引用が典型かな,と思いましたが,選挙というのは一回ごとのもので考えるべきものというよりも,長く続く(続かせる)民主主義の中のプロセスとして考えるべきもの,という含意が示されているのだと思います。

選挙とは,ある社会における個人や集団という「政治勢力」が,ときには互いに対立する利害や価値観を推進するために争う方法である。選挙とは,良い政府,合理性,正義,発展,平等など,私たちが望むものを何でも与えてくれるメカニズムではなく,異なる選好を持つ人々が何らかのルールに従って争いを処理する場所にすぎない。したがって,選挙が生み出すものは,これらの行為主体が何をするかに依存する。しかし,今回の敗者が将来的に勝ち組になるチャンスがある限り,選挙が「競合的」,「自由」,もしくは「公正」である限り,敗者は自分の番が巡ってくるのをまつことができる。平和裏に紛争を処理するのに合意は必要ない。「団結は力なり」というスローガンは感動的かもしれないが,選挙ではたとえ分裂していても力を発揮できる。ノルベルト・ボッビオの言葉を借りれば,「民主主義とは,流血なしに紛争を解決する…一連のルール以外の何物でもない」。これが,選挙の本質である。(167)

ちなみに,「競合的」なのか,って話もあると思いますが,この点については以下の部分が印象的でした。

現職が勝利する可能性と負ける可能性が同程度の場合に選挙が競合的であると私たちが考えているのならば,そのような選挙はほとんどないことを知る必要がある。だが,たとえ勝てる確率は不公平であっても,選挙の結果が不確実である限り,あるいは,競合する政党がサプライズの可能性を残している限りにおいて,選挙は競合的である。(96-97)

 

テキストブック地方自治

9月は上旬が割と時間あるのかなあ,というところから始まった割には,途中から政治学会の事務局仕事と後期授業のための教務委員長仕事に忙殺されて何もできなくなるという…なんというか確かにずーっとメール書いてるような日もあるわけですが,それにすべて時間が取られるというより,アテンションが取られるというのが結構きついんですよね。何かあったらどうしよう,というのを細かく考えてくとキリがないわけで。

というわけで宣伝を忘れてたのですが,9月には『テキストブック地方自治[第3版]』が出版されておりました。15年くらい前に初版が出た定評ある教科書ですが,私が参加するのは初めてです。というか執筆者も内容も第2版からもほんとにガラっと変わってきて,ホントにこれを3版といっていいものやら。私は圏域・自治体間連携という章を担当しています。依頼を受けたときはこのテーマで章立てしてる教科書はあんまなかったような気がするのですが,最近だと野田遊先生の教科書をはじめ,以前ご紹介した新しい教科書は結構同じテーマの章があります。

内容は,昨年度『選挙研究』の論文を書いたときに割と集中的にリサーチした成果をまとめたようなもんですが,連携の包括性と合意の拘束性という二つの軸で,非公式の情報交換みたいな連携から完全に組織も統合する合併までをまとめて「連携」として説明するものになってます。それでどちらかといえば合併に偏ったものになってきた日本の連携について説明し,なかなか更なる合併が難しい現在の状況で,圏域や大都市地域みたいな問題をどう考えるか,というような構成にしてます。

自治体の内部組織や人事などはもちろん,情報化とか公民関係,危機管理といった新しい分野でも,まさにその分野を引っ張っている人たちが書いてる面白い教科書だと思いますのでよろしければご覧ください。なお,付論を書いておられる村松岐夫先生(第1版・第2版の編者でもあります)による長めのコラムが読めます。

 

日本政治史/政治学史

日々の業務に追われてなかなか頂いた本を紹介しきれていないのですが,最近も非常に興味深い本がさまざま出版されています。ちょっと前ですが,駒澤大学の村井良太先生からは『市川房枝-後退を阻止して前進』を頂いておりました。ありがとうございます。市川房枝というと,もちろん平塚らいてうなどと並んで戦前から戦後にかけての女性運動の中心的な人物と知られているわけですが,彼女が戦前女性運動に従事していくところから,戦前の政党政治の中で女性選挙権の獲得を目指す運動を展開し,公職追放を挟んで戦後の議会政治家として活躍する軌跡が描かれています。

本書では彼女が政党を中心とした民主政治を深く信頼してその実現を目指すとともに,個人としては政党に所属せずにあくまでも好ましい政党を選ぶ・育てるという姿勢を貫くところが印象的です。そういう姿勢は,ある政党に属しながら政党政治の発展を目指すような姿勢と比べて,わかりにくいところもあるわけですが,民主政治の実現というメタな目的を掲げていることに加えて,婦人参政権を中心とした女性の地位向上を目指すときに,はじめから一党一派に偏らず*1,望ましい政策を提示する政党を選ぶということで政権党を含む全ての政党にプレッシャーを与えていくという戦略だったと理解されます。女性の権利に限らず,権利獲得を目指す運動はしばしば先鋭化しがちなわけですが(そして本書でもそういった路線対立が出てくるわけですが),「どの政党を支持するか」を空白にしておくことで政党間競争を促すということも重要な戦略なものです。そういう観点からも興味深く読むことができる本だと思います。 

 五百籏頭真先生と井上正也先生から『評伝 福田赳夫』をいただきました。ありがとうございます。関連資料や関係者へのインタビューに加えて,ご本人の「福田メモ」を用いて構成された大著で,福田赳夫幼年時代から晩年までの事績が非常に詳細に記されています。個人的に一番興味深いと感じたのは(たまたま関連の仕事をしてたから,という気もしますが…)8章の1965年不況に対応して戦後初の公債として赤字公債を発行するということでした。大蔵省を中心とした均衡財政主義を捨てて公債政策を導入する,というわけですが,財源不足を簡単に建設公債で埋めるのではなく*2,敢えて特別立法を制定して赤字公債を発行するわけです。あくまでも税収の落ち込みに対してその不足分を赤字公債として賄い,それを好況時に数年かけて返していく(9章)という話になります。それを実現するためには政治の側の歯止めが必要で,福田はその歯止めになったという自認があるわけです。その後は皮肉なことに,福田が「経済総理」をやっていた三木政権とその後の福田政権を皮切りに,赤字公債がすごい勢いで増えていくわけですが。 

 御厨貴先生・牧原出先生からは『日本政治史講義-通史と対話』を頂きました。ありがとうございます。放送大学の『日本政治史』で用いられた印刷教材をもとにして,両先生の「対話篇」で行われる放送大学の放送教材を書き起こしたもののを加えるユニークな教科書です。もともと映像を使っている放送教材ですが,言葉で書き起こしたものでも十分に雰囲気が伝わる非常に面白い試みだと思いました。僕も放送大学で講義をしているのですが(公共政策),教科書=印刷教材を書いたうえで授業をしようとしても,まあ基本的に印刷教材に書いてることを説明する感じになるんですよねえ。この本のように,印刷教材で扱いきれない部分を授業で説明するというのは理想的な話です。だいたい美味しいところは教材の方に書いてしまってるわけで…そこを「対話」を使って成立させるのは本当に面白いと思いました。また,御厨先生には,『日本政治 コロナ敗戦の研究』もいただいておりました。こちらは日本経済新聞の芹川さんとの「対話」を通じて,今回の新型コロナウイルス感染症への対応の困難について論じておられるものになっています。 

帝京大学の渡邉公太先生から,『大正史講義【政治篇】』を頂きました。ありがとうございます。 多くの先生方による分厚い新書で,これまでの昭和史講義(全7巻!)と明治史講義と並ぶちくま新書のシリーズです。本書については,前半は伝統的な政治史で,後半はどちらかというと社会史・社会運動史に近いような感じでしょうか。渡邉先生はいずれも後半の,「排日移民法抗議行動」と「破綻する幣原外交ー第二次南京事件前後」について書かれています。なかなか「大正史」というかたちで捉える機会はないのですが,勉強させていただきたいと思います。 

 関西学院の宗前清貞先生からは,『日本政治研究事始め-大嶽秀夫オーラル・ヒストリー』を頂きました。10回にわたるインタビューをまとめられたもので,本書では大嶽先生が「東大法学部」はじめ割と好き嫌いの話をされているので,本編ではもっとすごいのかなあという想像をたくましくしたところがあります。僕自身は大嶽先生と面識もなく,それほど熱心な読者というわけではないのですが,それでも読んだことがあるものと,いろんな方から聞く話が交差していて面白かったです。やはりいろんな人の影響を与えた/影響を受けたっていう話が多くて,なるほど「権力」について研究されてきた大嶽先生の見方なのだなあ,という印象を受けました。

大嶽先生が研究者としていろんなことに挑戦し,国際的なネットワークを作ろうとしていたということは,今から見ても純粋に見習うべきだと思います。もしシカゴ大学で学んでいたピーターソンの勧めに従って,大嶽先生が英語の論文を国際雑誌に投稿されていて,それが掲載されていたら,その後の日本政治研究はどうなっていたんだろう,という気もします(あと,個人的にはせっかくなんで宗前先生の解題も読んでみたかった,というところもありました)。

 最後に,本じゃなくて抜き刷りなんですが,立命館大学の加藤雅俊先生から,「個人史としての現代:政治・都市・地方自治研究を語る」という加茂利男先生のオーラル・ヒストリーをまとめたものを頂きました。ありがとうございます。加茂先生は,政治学の分野における都市政治研究を長く続けてこられて,私個人も非常に影響を受けた方なので非常に興味深く読ませていただきました。『大阪』を書いたときも,その後続けている(今まとめている)都市研究についても,どうやってまとめていこうかなあと考えているときに加茂先生が昔やられたお仕事がヒントになって展開しているところがあります。体調を崩されて研究から離れられているということですが,感染症が落ち着けばまた研究のお話をしたいところです。

 

 

*1:婦人参政権運動はしばしば労働運動と結びついて左派政党のイシューになる傾向がある,という背景があります。

*2:建設公債原則のもとで,公共事業費の方が多ければその枠内で建設公債を発行できる,と。